信陵君(しんりょうくん)は名は魏無忌(ぎむき)で
魏の国の王族で、戦国四君と呼ばれる4人のうちの1人です。
戦国四君は春秋戦国時代の後期に食客(いそうろう)を
多数抱え、各国に影響力のあった者たちです。
目次
国王に脅威を与えるほどの情報通
信陵君は王族の生まれですが、情け深く士を手あつくもてなし、
賢者やそうでない者も等しく身をひくくして交わっていたようです。
そのため、各国から士が集まり、多数の食客を抱えていました。
ある時、信陵君と魏王がすごろくで遊んでいる時に
北方の国境から狼煙があがり、趙の国の軍隊が国境を
越えようとしていると連絡がありました。
魏王は急ぎ対策を練るため、重臣を集めようとしましたが、
信陵君がとめました。
「趙王は猟をしているだけで、侵略ではありません」
魏王は落ち着かない状態で新たな報告を待っていると
趙王が猟を行なっているだけとの報告がありました。
魏王が驚いて信陵君に聞くと
「私の食客に趙王の動きを把握している者がおり、
趙王に動きがあれば連絡が入ります」
それから魏王は信陵君を警戒するようになり、
国政に関わらせないようになりました。
士との交わり
信陵君は世にでていない優秀な人物を見つける才能があったようです。
その中のひとりに侯嬴(こうえい)がいました。
魏の都で門番をしている70歳の老人でしたが、
信陵君は酒宴に招いたり丁重な対応でもてなしていました。
肉屋の朱亥も侯嬴の紹介で知り合い、同様に親交を結んでいました。
そんな2人が後々、信陵君の知遇に応える働きをします。
趙への救援
信陵君の姉の嫁ぎ先である趙の国が強国である秦の国に攻撃され、
魏に援軍を求めてきました。
魏王は将軍の晋鄙(しんぴ)に10万の兵を授け、
援軍に向かわせました。
これに気付いた秦は魏に対し使者を送り、趙を助けた場合は
次は魏を攻撃すると脅してきました。
魏王はこれに怯えて晋鄙に前進をやめさせその場に駐留させることにしました。
信陵君の元にも救援要請が来ていたため魏王に趙を助けるように
懇請しましたが魏王は聞き入れてくれませんでした。
そこで信陵君は死の覚悟を決め、食客を連れて自ら救援に赴くことにしました。
侯嬴に別れの挨拶をしにいくと、侯嬴は無謀を諫め信陵君に策を授けました。
晋鄙が持っている兵符(軍を委任する証の割符)の片符が
魏王の寝所にあるため、寝所に出入りが可能な寵姫の如姫に頼んで
盗みだしてもらい、これを用いて晋鄙から兵を奪えば趙への救援が
できると助言しました。
魏王の寵姫である如姫は信陵君に父の仇を討ち取ってもらった恩があったため
要請に応えて片符を盗み出してくれました。
準備が整い出発するときに侯嬴は晋鄙が兵権を渡さない場合は
肉屋の朱亥を連れて行き朱亥に晋鄙を討ち取らせるように言いました。
すると信陵君は晋鄙が素直に兵権を渡さない可能性が高く
殺さなければならないと思い涙を流し嘆いた。
侯嬴は最後に自分は高齢のため、お共できないが晋鄙のもとに
到着した時間を見計らって自ら首をはねて餞とし
これまでの信陵君の知遇に報いると誓い、
その通りに実行し、見事な最後を遂げました。
信陵君は朱亥を連れて晋鄙の元に向かい、
片符をわたし、兵権を奪おうとしたが予想通り
晋鄙は承知しないため、朱亥が討ち取りました。
こうして兵権を確保した信陵君は秦軍を撃破し、
趙への攻囲を解かせることに成功しました。
信陵君は趙に対しては功があったが、魏王に逆らったため、
帰国することが出来ず、以後10年にわたって、
趙に留まり続けることになりました。
帰国
秦は魏に信陵君がいないため、しばしば魏に対し攻撃を行うようになりました。
魏王は困り果て、信陵君への怒りを解き帰国を要請しました。
しかし、信陵君は罪に問われることを恐れ帰国することを躊躇いました。
趙に滞在中、知り合った元博徒の毛公、元汁物屋の薛公が訪ねてきて
信陵君の名望の元である魏の国がなくなれば名望が地に落ちることを説かれ
信陵君は急いで帰国の準備をすることにしました。
魏王は帰国した信陵君と対面し、涙を流してよろこび上将軍に任じました。
信陵君は魏の軍を率いるようになると諸国に呼びかけて援軍を募り
5カ国連合軍を率いて、秦軍を2度にわたり撃破しました。
秦は信陵君の失脚を目論み、以前に信陵君に殺された
魏の将軍である晋鄙の食客を使って魏王に讒言させ、
魏王は信陵君を疑うようになり上将軍を解任しました。
失意の信陵君は自棄に陥り、酒色にふけって体を壊し亡くなりました。
おわりに
戦国四君の中で一番魅力的で優れた人物でもあったと思います。
信陵君がいる間は秦もなかなか攻め込むことが出来なかったため、
長生きしていればもう少し秦の中国統一は遅れていたかもしれません。
侯嬴が自分で首をはねる侠の精神は正直、自分には理解の埒外ですが、
「士は己を知る者のために死す」と言った予譲のエピソードを思いだしました。